東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5794号 判決
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〔判決理由〕(二) 逸失利益
<証拠>によると訴外勝之は昭和四〇年一一月一〇日協議離婚し、原告らの親権者となつたものの、これを養育することなく、原告ら子供を愛泉寮にあづけ放しであること、昭和四二年八月二〇日面会してから本件事故まで三年以上も音沙汰なしで養育費も全く負担していなかつたこと、事故前本件後見人はじめ親類も入寮中の原告らの面倒を見たこともなく、費用一切を公的負担でまかなつてきたこと、訴外勝之には女児に対する強猥せつ罪で逮捕勾留されたことがあること、現在に至るも、事故当時の同訴外人の定職については分らないことの各事実が認められる。
右事実によると、訴外勝之が生存していたとしても、はたして原告らが同訴外人から扶養を受け、あるいは同訴外人のたくわえた遺産を将来相続することになると解するには疑問を生ぜざるを得ない。
しかしながら逸失利益は現在の諸事実から将来に向つて得るであろう収入、稼働期間等に高度の蓋然性を認めて損害を算定するのが一般的であるが、必ずしもそれに止まらず、主婦のように労働能力はあるが独立して収入を得ない者、あるいは幼児のように、現時点において労働能力のない者にもある程度将来の収入を擬制もしくは想定して、生命侵害という全体としての損害総額の均衡上、加害者・被害者間の説得的技術として損害費目の一つとして損害算定することも、許されているのである。それ故被害者の事故当時の収入が一応の基準になるといつても、それに尽きるものではない。
本件被害者のような者も、ある程度の労働能力自体は有するのであつて、それが事故で永久に喪失せしめられたことには変りがない。よつて右能力を控え目に評定することによつて何がしかの逸失利益を算定することも許されないことではない。ただ年少者のように将来の労働能力の上下について不確定な要素を含む者と、既に現実的に労働能力が低いことが判明した者あるいは収入を全く家計に入れず自ら費消してしまう者との間には、控え目な算出基礎といつても自ら差異(平均賃金のとらえ方あるいは生活費の占める割合等)があつて然るべきである。
原告ら主張の統計に基づく三万〇六〇〇円(月額)の収入は、訴外勝之の年令(昭和一一年生れ・乙第三号証)から言つても、極く控え目な数値であることは当裁判所に顕著であつて、この程度の正当な収入を得る能力すら同訴外人が有していなかつたと解することはできない。
そこで生活費の収入に占める割合を六割として稼働可能な二九年間の年五分の中間利息をライプニッツ計算法によつて控除して算出すると次のとおり二二二万三九一〇円となる。
30,600円×12×(1-0.6)×15.1410
=222万3,910円 (佐々木一彦)